大阪地方裁判所 昭和54年(ワ)6687号・昭56年(ワ)9344号 判決
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【判旨】
二1 昭和五二年三月ころ、被告代表者と原告代表者(当時は松下某が右代表者であつた。)が土地売買のことで折衝した際、被告東京工場のエラスタイト製造機械設備をより高能率のものに取替えたいという話が出、原告はそれまでにアスファルトの混練機械設備を手掛けたことがあつたので右エラスタイト製造機械設備も是非やらせて欲しいと申し出て、被告東京工場のエラスタイト製造機械設備新設についての交渉が、被告側は小林保全課長(以下「小林」という。)、原告側は営業担当社員の佐々木らの間で始まつた。原告ではこれを以前にもアスファルト混練機械設備を下請させたことのある訴外日本機電工業へ七四〇万円で下請させることにしたため、同社社長佐藤(以下「佐藤」という。)は何回か被告方工場へ来てエラスタイト製造設備やその工程を見せてもらうとともに、前記小林らと本件機械設備についての技術的打合をした結果、被告側では一時間に2.4立方メートルの半製品の製造能力を有する設備を求めていること、また半製品がミキサーから出る時には一三〇度C位の温度を保持していることが必要であることを知り、本件機械設備全部のフローシート(概要図、甲第一号証)を三月三〇日付で作成したが、右フローシートにおいては、スウェーデン製ファイマート社特許のミキサーと布製のフィード(ベルト)コンベアを使つている点に特徴があつた。原告は右フローシートを被告へ交付したところ、小林から半製品が外気に触れないので保温の点からも外観上の美しさからもベルトコンベアよりもスクリューコンベアの方がよいと要請されたが、佐藤としては加熱して作る半製品を円筒の中に入れるのでは冷えて固まつてしまい押送りできないのではないかと危惧しその旨を告げたものの、小林が大丈夫と主張したので、これを容れてフィードコンベアをスクリューコンベアに変えることとなり、佐藤が再びフローシート(甲第二号証)を同年五月六日付で作成した。そして、右フローシートを前提にして同月三一日原告から見積書(甲第三号証)を提出したところ、小林からファイマート社のミキサー代三一〇万円が高すぎると指摘され、七月ころ同業のエラスタイト製造業者が使つている三秦製作所製のミキサー(以下「三秦製ミキサー」という。)を使うよう指示された。前記ファイマート社製ミキサーはタライ形をしており、周囲及び底部の全面に保温用加熱オイルジャケットが取付けてあつて保温効果が大きいほか、中心軸にペダルが長短二本ついていて短いものは粘着性の強い混練物を中心から外側へ、長いものは外側から中心へと押出してかくはんし混練する機構になつており、佐藤は本件機械設備におけるアスファルトと木粉の混練には同ミキサーが最適であると考えていたので、三秦製ミキサーを使うのでは本件機械設備が全体として十全に稼働できるか責任が持てないと三秦製ミキサーの採用には反対したが、小林の意思は固く、東京工場の本件機械設備の設置及び試運転が成功したら本社工場の機械設備も原告へ注文する旨を述べ、同年七月に被告は一〇〇〇リットル容量の三秦製ミキサーを支給することを約束し、やむなく原告は右機械設備の中で中心的役割を果たす装置である混練機に、右三秦製のミキサーを使つて本件機械設備を製作することにした。ただし、それまではミキサーを重油バーナーで加熱して混練する方式を取つていた被告としても、本件機械設備はバーナーを使わずに保温用加熱をするという新方式の設備の試作ないし開発的要素があるため、試運転等も十分に行う必要があり、完成に多少の時間がかかることは予想し承認していたのである。
小林は同年七月に三秦製作所へミキサー一台を一八〇万円で注文したが、この三秦製ミキサーは円筒を横にした形で円筒の中心をシャフト(軸)が横に通つており、このシャフトに装着された金属製の羽根がシャフトの回転とともに回転して混練物をかくはんする構造になつており、三秦製作所では同様のミキサーを底から直接ガスバーナーで加熱し混練後はミキサーを倒して半製品を取り出す方式でエラスタイトを製造している他の業者へ納入したことがあつたが、今回の小林の注文では底から半製品を出しスクリューコンベアで運ぶようにしたいとのことであり、そのため保温装置としてミキサーの両側面に保温用のオイルジャケットが取付けられることになつた。一方、原告では三秦製ミキサーの性能、仕様等を調査させてほしい旨小林を通じて三秦製作所へ申入れたが、現品や仕様書は見せてもらえず、原告側が初めて三秦製ミキサーを見たのは後述九月七日の本件契約成立日に山口が小林と一緒に三秦製作所へ挨拶に行つた時であつた。
同年九月三日、ミキサーを除く本件機械設備の見積書(甲第四号証、乙第一号証)が原告から被告へ交付され、小林、山口らで本件機械設備の据付完成期限は九月二五日(ただし、前記のとおり多少の遅延は当初から予定されているので厳格なものではない。)、代金は見積額より減額して八五〇万円とし、その支払方法は検収後二〇日締翌月一五日に一二〇日後を満期とする約束手形で支払うことが合意され、同月七日には原告側は松下社長(当時)、佐藤、佐々木に代つて山口、被告側は小林の立会で、木粉計量機、同機から混練機へ至るクライマーコンベア、アスファルトタンク(既設)、同定量ポンプ、保温用オイルタンク、同ヒーター、検温器、オイルポンプ、混練機保温用オイルジャケット、混練機(ただし、被告支給の三秦製ミキサーを使用する約定)、ホッパー、ホッパーからローラー(既設)へ至るスクリューコンベアー、制御盤等から成る本件機械設備の設計、製作、設置工事をするという請負契約が、右合意事項のほか設備設置場所は被告東京工場、設備搬入予定は同月一八日、据付開始日は同月二〇日との約定で原被告間において締結された。
2 被告東京工場では本件機械設備設置のため同月一三日ころからそれまで使用してきたエラスタイト製造機械設備を撤去し、同月一七日ころには三秦製作所からミキサーが納入され、二〇日ころから原告の設備据付が始まり同月末ころには本件機械設備の設置が完了した。そこで同年九月三〇日ころから一〇月五日ころにかけて第一次試運転が小林立会のうえでなされたが、当初の打合せで示されていた試運転条件は一バッチ(一混練分)に一八〇度C位のアスファルト三〇〇キロ、木粉(含水量についての数字的な指定は特になく、被告工場で通常使用しているものを使用する。)一六〇キロを投入し、混練時間一バッチ7.5分以内というものであつたが、三秦製ミキサーの容量が必要な容量より小さく、アスファルト三〇〇キロ木粉一六〇キロは投入できず、アスファルト一六〇キロ木粉八〇キロに変更して試運転をしたが、アスファルトの温度が低下してミキサー内で混練物が固まつてしまい、ミキサーのシャフトを回すギア(歯車)が折れ、スクリューコンベア内の半製品も冷えてコンベア内で固まつてしまい、失敗に終つた。そこで、佐藤、小林らが協議して試運転条件につき材料の投入量はアスファルト一六〇キロ木粉八〇キロに変更するが、その余の条件は変えず、ギアの修理をするほか、右失敗の原因はミキサーの加熱不足にあると考えられたので加熱用オイルジャケットを増設し、スクリューコンベアは取りはずして布製のベルトコンベアにすることなどが合意され、一〇月一七日に右内容の第一次改造工事の見積書(甲第六号証)が原告から被告に送付され、追加契約として改造工事が行われることになつた。
3 三秦製作所は被告からの連絡によりミキサーのギアを取替え、原告もベルトコンベアを新設しこのベルトに半製品が粘着しないよう水をかける工夫を加え、オイルジャケットを増設し、ミキサーの放出ゲートに保温のため開閉式のホッパー(大型じようご)を取付け、木粉コンベアも手直しするなどの第一次改造工事を一〇月二二日ころに完了した。
4 ところで、被告では九月から翌年二月にかけての時期が繁忙期であるにもかかわらず東京工場の本件機械設備が以上のような試運転の失敗によつて休業状態となつており、しかも本件機械設備完成の目途も全く立たない有様であるため、一一月七日ころから、撤去していた旧設備を取り出し、原告が納入据付けた機械類のうち電気加熱装置、アスファルトの定量ポンプ、木粉投入装置を取りはずし、訴外日邦化工へベルトコンベアを注文してこれと接続し、一一月一一日ころからこれらの装置によつてエラスタイトの生産を再開した。
5 次いで第二次試運転が一〇月二四日ころから一一月にかけて行われたが、ミキサーの混練保温状況はやや改善されたものの未だ十分ではなく、また生産量が少なかつたためもあつて、ベルトコンベアで水の気化熱が奪われて半製品が固まつてしまい、結局失敗に終わつた。
6 翌五三年になつて三月七日ころ原告の中山常務が佐藤とともに被告本社を訪れ小林に会つて、本件機械設備を完全稼動させるため加熱用電気ジャケットの設置、ベルトコンベアに温水をかける装置の新設等の第二次改造を当初の請負契約及び第一次改造用追加契約に更に追加してこれを完了したうえで、三月二〇、二一日にもう一度第三次試運転をして三月末までに本件機械設備を完成させ、これまで未払となつている当初の契約による請負代金八五〇万円、第一次改造費の一三八万六〇〇〇円、第二次改造費五〇万円の計一〇三八万六〇〇〇円を同年四月一五日に被告から現金で支払を受ける旨を合意し、この合意につき被告の塩本社長の承認も得た。
その後三月一六日付で第二次改造の見積書(甲第七号証)が被告へ送付され、そのころから原告は第二次改造を行なつて各機械のテストをし、原被告間では第三次試運転の打合せがされていたが、同試運転は被告の都合で予定より遅れ四月三〇日になつてやつと実施された。しかし、今回も東京工場の十分な協力が得られなかつたため、全工程にわたる試運転ができなかつたばかりでなく、依然としてミキサーにおいて混練中に製造中の材料の温度が下がり、ミキサーから次の工程に進む際に必要とされる温度(一三〇度C)を保持することができず、第三次試運転も失敗に終つてしまつた。
7 原告は、同年六月にホッパーを取り付けて試運転を行ない、その後も被告に試運転をさせてくれるよう申入れ、被告から承諾の回答を得るや、木粉含水量五パーセント等の試運転条件を示したが、被告は原告の技術に対して不信の念を表明し、さらには本件機械設備が予定どおり完成しなかつたことによる損害を主張して双方対立し、本訴に至つたものである。
三以上の認定によれば、原被告間において昭和五二年九月七日に締結された契約は、原告主張のようなミキサー以外の機械類の納入と試運転及び改造の委託との混合契約ではなく、本件機械設備設置の請負契約であり、原告が設置した本件機械設備によつて被告がエラスタイトの製造ができるまでに仕上げてはじめて右設置工事が完成したといえる趣旨の契約であつたと認められる。ただし、本件請負契約は、三秦製ミキサーが被告から支給されたものであるにもかかわらずその性能等も契約時点においては明確になつていなかつたため、原告としてはいわば手さぐり的に作業をすすめて行くほかなく、また、被告が従来のものより、より効率的な性能をそなえたプラントを希望しており、そのうえ、バーナーでなくオイルジャケットにより保温用加熱をする点でこれまでの機械設備とは異なつた方式の機械設備を試作するというものであつたため当初からある程度の改造・手直し及び試運転が必要なことは予想されており、したがつて、完成までにはかなりの時間と費用がかかることは双方とも容認していたのであつて、設置完成期限も一応九月二五日とはするものの右期限も必ずしも確定的なものではなく、相当程度の遅延は許容されていたのであり、また第一、二次改造契約も本件請負契約の右性質上、被告もやむを得ないものとして本件請負契約に追加して契約することを承諾したものであつた。ところで、原告が設置した本件機械設備は、第三次試運転終了の時においてもエラスタイト製造ができるまでには至らず、本件機械設備設置の請負工事が完成しているとはいえないのであるけれども、原告としては本件機械設備につき当初の設置及び第一、二次改造完成のため原告なりに十分努力し、被告に対しても誠意ある態度をもつて対処してきている。そして、前記認定事実のほか、<証拠>に照らせば、第一ないし三次各試運転の失敗すなわち本件機械設備が完成に至らなかつた原因については、被告から支給された三秦製ミキサーが混練能力及び保温用加熱能力の点で本件機械設備を構成する混練機としては不適当なものであつたためにミキサーから出た半製品が次の工程において必要とされる温度を保持することができなかつたことにあると認められ、バーナーでなくオイルジャケットで保温用加熱する方式でエラスタイトを製造することは三秦製ミキサーを使用する以上、少なくとも通常の状態における含水量を有する木粉の使用を前提とする限り、不可能であつたといわざるをえない。しかしながら、ミキサー以外の本件機械設備については、電気加熱装置、アスファルト定量ポンプ、木粉投入装置、ホッパー等の機械類を被告が本件機械設備から取りはずして一時期使用していたことにも示されるとおり、それなりの有用性は有していたとみることができる。そうしてみると、本件機械設備設置工事は結局完成していないけれども、そのことを理由として被告が本件請負報酬の支払を全く拒否でき、原告が施工した工事に見合うだけの報酬も請求できないとすることは、右工事未完成の責任を全面的に原告に負わせる結果となつて信義則上相当でないから、原告の被告に対する本件請負報酬請求はその一部を認めるのが相当である。
そこで、右認められるべき金額につき検討すると、原告側の反対にもかかわらず三秦製ミキサーを使用することを固持した被告が右責任の大部分は負うべきであるけれども、原告もまた、三秦製ミキサーの性能、仕様等が判明しないままで本件請負工事を引受け、請負契約を締結しているうえ、ミキサーに対する保温用加熱のために必要な熱量計算すらしていないのであつて、これらの点において本件機械設備設置工事の請負人としては欠ける所があつたといわざるをえない。ことに第一次試運転が失敗した後においては、ミキサーの保温用加熱の点に問題のあることが既に明確になつていたのであるから、この時点で必要熱量の計算をしていれば、改造を加えても本件機械設備を完成することはできないことが判明し、第一、二次改造をするといういわば無駄足を踏むことはなかつたはずであるといいうるのであつて、これらのことを考えると、原告は信義則上、第一、二次改造契約の代金を被告に請求することはできないが、当初の請負代金のうち相当額については被告に請求することができると解すべきであり、右に述べた原被告双方の責任の割合等を勘案すれば右相当額は七〇〇万円であると認められる。
四次に抗弁について検討するに、被告主張の解除の意思表示到達の事実については<証拠>によりこれを認めることができる。
ところで、原告が、第三次試運転終了後被告が最終的に履行期日とした昭和五四年二月末日ころまでの間においても、本件機械設備を完成させることができなかつたことは、前記二のとおり認めることができるが、本件機械設備はミキサー及びその加熱施設を取替えることも全く不可能ではないことがうかがわれこの点で可分であるともいえるし、前記三で述べたように、被告が本件機械設備の一部を一時的にせよ使用したことにも示されるとおり、原告の設置した機械設備は有用であつたことを考慮すれば、被告の本件請負契約に対する解除は、原告が既に施工した部分についてまでは遡らず、未施工部分についてのみ効果を有すると解するのが相当である。そうすると、右解除は、前記原告の被告に対する七〇〇万円の報酬請求権になんらの消長を来たすものではなく、被告の解除の主張は理由がないといわざるをえない。
(古川正孝 福富昌昭 宮本初美)